也田貴彦blog

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オールタイム漫才ネタベスト10 ④ブラックマヨネーズ「引っ越し」

ブラックマヨネーズの漫才を見るたびに、良い漫才師は「ボケ」「ツッコミ」などという形式的な役割分担を超えてくるのだなと思い知らされる。彼らのネタは後半になるともうどっちがボケでどっちがツッコミなのか分からなくなることが多い。それもそのはず、彼らの役割はボケとツッコミではなくあくまで「吉田」と「小杉」なのである。吉田のあの神経質で考えすぎなキャラクターは、決して無理やり演じられているものではなく、本人の自然なパーソナリティーを培養したものなのだ。だからこそ言葉にいきいきとした力があり、リアリティがあり、それに対する小杉の苛立ちにも共感できる。

 

このネタでは「引っ越しをしたい」と言う吉田に小杉がいろいろな場所を提案する。「駅の近く」「新築マンション」「マンションの最上階」。しかしいずれも吉田の神経質な屁理屈によって拒絶されてしまう。ついに小杉はしびれをきらし叫ぶ。「実家に住めや!」。吉田は「俺一人暮らしの話してるんやろ」とツッコむ。いや、ツッコむというよりは正す。吉田は純粋に理想的な場所へ引っ越しをしたいだけなのだから。そこから無茶苦茶な論理を展開していくのは吉田でなく小杉だ。苛立ちのピークに達した小杉がやけくそになって”実家での一人暮らし”を提案し、吉田はそれに振り回され困惑する…。ここに至ると、ボケとかツッコミとかいうシステムがいかに表面的で脆弱なものであるかがよくわかるだろう。吉田の心配と小杉の苛立ちの応酬によるスパークは、書き割り的役割分担からの脱却と生身の人間としての躍動によるものだ。純文学という言葉に倣えば、これこそ”純漫才”である。

 

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