也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

M-1グランプリ2020 感想

①インディアンス
トップ出番の申し子のようなキャラクターで、見事に場を温めていたと思う。去年よりも余裕と落ち着きも伝わってきて、勝手なことを喋り続ける田渕とツッコミで制止するきむのコンビネーションが美しく見えた。
田渕の違った一面が垣間見えると、もっと彩り豊かな漫才になるのかなと思う。底抜けに陽気なキャラであるがゆえに到達してしまう狂気、あるいは孤独、のような要素が似合う気がする。
あと個人的な好みだが、木村が「罵声」を「美声」と言い間違えるくだり、噛むというハプニングをあえてネタに盛り込んでるというのは、ちょっと違和感がある。俳優がNGテイクの練習をしてるような。

 

東京ホテイソン
オール巨人が「ツッコミはお客さんの代弁」と言っていたが、ツッコミの手法は直接的な代弁だけでなく、霜降り明星的な種明かし式のものもあるし、今回の「頭文字を取るとこうなってましたー」と笑わせるものも、ツッコミとして成立はしていると思う。
ただ、絵で想像させるのではなく文字のネタなので、確かに頭で思い浮かべるのは難しい。「頭を取る」とか「しっぽを取る」「たぬき=たを抜く」のような説明も丁寧にしなければならず、そこに時間を取られるのも歯がゆい。全然趣向は違うけど、2017年のミキの「鈴木」の字を自分の体を使って説明するネタは、分かりやすく視覚で示すという意味でもよくできていたんだなと改めて思った。
東京ホテイソンは本当に試行錯誤しているコンビ。2018年に霜降り明星が優勝した時には、体言止め&ワードセンス重視のツッコミというスタイルが似ていて、バッシングもされたらしい。そこから馬鹿馬鹿しいツッコミスタイルに進化させて、去年の準決勝の「This is a pen」ネタは分かりやすく、かなり破壊力もあった。それで決勝に一歩届かず、マイナーチェンジしたうえでの今年のネタ、という機微がある。いちM-1ファンとしてはその探求心に最大限の敬意を表したい。

 

③ニューヨーク
個人的には準決勝で一番笑ったコンビ。「細かい犯罪が気になる」という設定が絶妙。ニューヨークの生意気・ちょい悪なキャラにもよく合っている。「休みの日の両津勘吉くらい暴れてる」を単なるくすぐりと思わせて、「懐かしいな、こち亀か。無料で漫画全部読めるサイトで読んだわ」のボケに繋げる運転なんかもスマート。
「選挙に行く」「募金する」とかの良い行為と「転売」とかの悪い行為で揺さぶる後半もよくできてる。それをきっかけに、嶋佐という人間に変化が生まれる展開へもっていくのも面白いかもしれない。嶋佐が善人か悪人か分からない不気味な存在になっていくとか、あるいは嶋佐自身が何が善で何が悪か分からなくなるとか…。
個人的には「おでんつんつんしてたんです」「古悪い(ふるわるい)ことしてる!古くて悪いことしてる!」が好き。

 

④見取り図
見取り図はしゃべくり漫才が多く、コント漫才は珍しいはず。シンプルな形式で見やすく、新しさがあるわけではないが、構成に隙がなく、笑わせポイントが次々に仕掛けられている。「車、無いん!?」の複線のさりげなさとか、実に上手い。
個人的には、タレントを野次るのとか、大御所を呼び捨てで叫ぶのとかは、マネージャーの行動としてはかなり意味が分からんので、そこに何か理由があるか、理由なくただ楽しいからやってるサイコパスなのか、はっきりさせた方がいい気がした。
あと細部への気配りがさすが。「なだめるな!俺ゴールデンレトリバーちゃうねん」とかも、犬じゃなくてゴールデンレトリバーと具体的に言うのが良い。

 

⑤おいでやすこが
前半4組のよく練られた漫才が続いて、お客さんがそろそろシンプルに頭を使わず笑いたくなってきたタイミングと、彼らの登場がちょうどかち合った印象。
単純なツッコミの強さで否応なく笑わされ、漫才の根幹はやっぱり人間力なんだなと大笑いしながら気づく。歌が知らない歌詞になった瞬間においでやすが喋り止めるコンマ何秒の間と表情とか、小田和正の「ただ、盛り上がるか―!!」の前のタメとか、細かい技術も光っている。
準決勝は、彼らの味方のようになっているお笑い好きのお客さんのおかげで決勝へ押し上げられた側面もある気がしていたが、決勝の場でも爆発的にウケているのを見て、そんなことはなく本物の実力なのだと思い知った。あっぱれ。

 

マヂカルラブリー
昨年の敗者復活戦のネタ。準決勝が大ウケだったが、そのネタを最終決戦に温存していると分かって「おっ」と思った。大変勇気のいる決断だったと思う。
このコンビの良いところは、極端であること。いきなり全速力で窓ガラスを割るという馬鹿馬鹿しさから入るのが良い。普通は後半への盛り上げとかを考えて、もうちょっと落ち着いた入り方をするんだろうけど、そういう出し惜しみがない。そのぶん後半がちょっと失速した印象は否めないが、とにかく徹底してナンセンスを積み重ねていく姿勢がすがすがしい。

 

⑦オズワルド
改名したい理由が「口が開いている間に物を入れられるかもしれないから」。ニッチでセンスあふれる切り口なんだけど、現実感の薄いボケではあるので、口が開いていることを畠中がそこまで忌避したがる理由付けが欲しくなった。「実は過去にとんでもないものを口に入れられたことがある」とか、「口に物が入っていたせいでこんなミスを犯してしまった」とか。
「ひきにき」に変えるくだりなんかはすごく面白い。だからこそ、自分の名前を「ひきにき」に変えてまで怖がる背景が示されれば、もっと切実さが増して、二人の感情にもナチュラルな熱が乗ってくると思う。声を大きくしたほうが良いか小さくしたほうが良いかは、その熱の乗り方次第じゃないか。

 

⑧アキナ
準決勝ではトップレベルにウケていたが、正直、そこまでウケるネタかな?とは思っていた。二人とも演技がすごく上手いし、4分間の中での起承転結もよくできている。一方で、ストーリーがきれいに流れすぎているという物足りなさがある。遊びの部分をもっと見たいという気がした。エッジの効いたワードだったり、オリジナリティ溢れるボケだったり、予想外の展開だったり…
彼らのコントは人間の微妙な心理を突いたものが多くてすごく好きなので、そういう繊細な空気感が反映された漫才も見てみたい。

 

⑨錦鯉
49歳が一番バカを演じ、かといって痛々しさも感じさせないというだけでも素晴らしい。
パチンコ台という設定に則った流れだが、まさのりのバカ感を活かして、もっと振り切れるくらいバカなボケを期待してしまったかな。「レーズンパン」の天丼、2回目はよくウケていたが、3回目が読めてしまうのが惜しい。
あと「四万十川坂本龍馬!リーチ!」「それは高知だ」っていうのは、ちょっとクレバーなボケなので、まさのりには向かないと思う(笑)

 

ウエストランド
「お笑いは復讐」とか、井口の偏見や僻みはすごく面白いんだけど、ネタというよりトークをしているような印象が拭えない。本筋をつけてほしいというか、ネタとしての強度・テーマ性がもっと高まれば、という気がした。「このまえこんな許せないことがあったんだよ!」とネタの最初に井口がテーマを提示するだけでも印象は変わると思う。
思えば去年のミルクボーイは「偏見」の調理法が抜群に上手くて新しかったんだな。

 

最終決戦①見取り図
交互に繰り出す喧嘩めいた掛け合いとか、聞いたことないワードを遅れてツッコむとか、ここ3年の彼らのネタの集大成という趣き。「俺ドミニカの人ちゃうねん、俺一回でもホームラン打ってるの見たことある?」とかの、練られた二言目のツッコミで笑いが膨らむ。あと、かぶせを巧みに扱うコンビ。「ドアノブカバーの言い方」→「便座カバーの言い方」。「俺吸血鬼なんかな!」→「俺モハメド・アリなんかな!」。かなり密度の濃いしゃべくり。欲を言えば、4分の中でボケや展開が積みあがっていく雰囲気がもっとあればよかったのかもしれない。

 

最終決戦②マヂカルラブリー
前半の、電車揺れすぎ⇒トイレ⇒売り子の流れが圧巻。圧巻過ぎてまたもや後半が弱く見えもしたが(笑)、十分すぎるウケ具合。Gがかかって浮き上がったり床に叩きつけられたりのところは死ぬほど笑った。
動きやドタバタ具合がレベルアップしたネタを2本目に配置した作戦が完全に功を奏した。電車が揺れるというところから殺人列車までいく、これほどナンセンスの極致へもっていってくれると気持ちが良い。まさに「突き抜けた」ネタでありコンビだと思う。
これを「漫才ではない」と文句を言う人は、漫才に何を求めているのだろう。漫才らしからぬ要素を吸収して大きくなってきたのが漫才という演芸。しゃべくり漫才しか認められないのであれば、漫才文化が尻すぼみになるのは目に見えている。偏狭なカテゴリ意識は未来を潰す。肝心なのは笑えるかどうか、面白いかどうか。

 

最終決戦③おいでやすこが
1本目は、こががボケではあるんだけど、おいでやすのツッコミの勢いがすごいので確実においでやすの方が「変な人」に見えた。2本目はこがの「変な人」の比重が強くなった。
ファーストラウンドでおいでやすのキャラがハマりすぎたので、僕含め、観ている人のおいでやすへの期待が高まりすぎていたせいかもしれないが、相対的に、おいでやすの面白さが1本目より薄まった気がした。
こがに対しては失礼な言い方になってしまうが、もう観る側は「おいでやすで笑いたい」という身体にされていたのだ。ツッコミに重点の置かれたネタを浴びたいお客さんの「おいでやす待ち」状態と、ネタの方向性がほんのちょっと乖離した。2本目もかなりウケてはいたが、そこがマヂカルラブリーとの1票の差として現れたのだと思う。1本目の「火曜日まで待ったぞー!」みたいな爽快なフレーズが一個入ってるだけでも結果は変わったかもしれない。

 

優勝はマヂカルラブリー。2000年代後半、「磔になって処刑される時にうまく逃げる方法」とかの独特な設定のネタと、野田クリスタルの不穏なキャラクターに衝撃を受けて、友人たちにも薦めまくった。就職面接で「好きなお笑い芸人は?」と聞かれて「マヂカルラブリー」と言ったこともある。こんなスターダムにのし上がるとは感慨深い。

 

最後に、マヂカルラブリーに限らず、決勝10組が素敵な漫才を見せてくれたこと、そしてM-1というアツい大会を今年も開催してくれたことに、いちファンとして感謝、感謝、感謝です。