也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

M-1グランプリ2017 感想

こんなに観ていて疲れる番組は他にない。今年は特に芸人たちの本気がびしびし伝わってきた。とろサーモンの涙、和牛水田の悔しげな表情、ジャルジャル福徳の「おまえよく今ボケれるなあ」という一言。芸人たちは本気で演じる。こちらも本気で観る。もはや笑いを超えている。生き様。

①ゆにばーす
今まであまりマークしてなかったんだけどトップ出番であのウケはすごい。ネタは王道で、個人的にはもっと破壊が見たいけど、翼の折れたエンジェルをただただ歌うあのエゴは素敵!「こんな戦争は嫌だ」「戦争は全部イヤ!」もいいよね。人間味の垣間見えるボケ大好き。

②カミナリ
昨年からマイナーチェンジしてきてよくなっていた。上沼のダメ出しは身もふたもないようだけどさすが本質を捉えていて、昨年のスタイルよりも間合いが詰まっているのでどつきの意味合いが薄まっているのは確か。そしてそのダメ出しをすんなり受け入れる素直さがすごく良いw

とろサーモン
・まさに漫才人生の集大成という感じ。お得意の「続行」「継続」、寄生虫のくだりや猿を呼ぶ声、焼き芋の教祖はまぎれもない「久保田節」。やっぱり表現ってそういうことやで。自分流を貫く、貫いたもん勝ち。
・ネタは面白いだけでなく、作り手のエゴがにじみ出ているものが俺は好きで、他人からの理解が得られるかとか度外視で、それを表現したくて居ても立っても居られないというどろっとした濃厚な内的なエキス、それが唯一無二の味わいとなる、とろサーモンには確かにそれがある。

スーパーマラドーナ
順当に決勝に行っていていいレベル、ただやっぱり田中の一人芝居形式は頭打ちなのかも。あの田中のサイコパスさ、新人類的な飄々としたキャラはさらにいろんなタイプのネタでも活かせる、もっと広がり・可能性がある、酷だけど武智、もっと試してほしい!

かまいたち
しゃべくりの応酬は好きだけど、有名な物語の腑に落ちない部分にツッコんでいくという漫才の手法は珍しくないので、印象に残りづらかったかも。「わたし、卍?」「いやそんなに卍じゃないですよ」の意味不明さは最高。

マヂカルラブリー
「算数」のほうをやってほしかった!でもマインドは絶対にあれでいい、上沼恵美子のダメ出しで変に迷走しないでほしい、単調さだけを改善すればいい。ていうか上沼恵美子は芸人なんだから笑いを交えてダメ出しをしてほしいw その点松本の「ここはスキップします」はさすが。

さや香
ポップで華がある。あの大舞台であのテンション、よく出せた。構造は単純なんだけど派手な演技でのパッケージングが巧み。プロモーションが上手いタイプ。

⑧ミキ
今まで昂生のトーク以外でネタはあまり面白いと思ったことがなかったけど、1本目は良かったなあ、「鈴木」の字だけであんなにヒートアップ。キングオブコントかまいたちウエットスーツもそうだけど、くだらん些細なことだけで延々ムキになってやりあうのってやっぱり面白い。

⑨和牛
・和牛はうまい。うますぎた。昨年より強いボケが出ないところを超絶技巧でカバーしてしまった。1票の差はそこに出た。おもろいもんぶつけたろやないかという良い意味での傲慢さみたいなところは確かにとろサーモンが優った。しかしどっちも生き様、どっちも生き様なんよこれは。
・和牛は3回戦、準々決勝、準決勝、決勝、最終決戦、全部違うネタをぶつけている。これは本当に、本当にえぐいこと。勝負ネタが年に5つ。漫才の怪物。その怪物が、自らの怪物的な技術力を制御できなくなった。食うか食われるかの戦いで、和牛は知らないうちに自分自身を食ってしまった。
・1本目も2本目も伏線回収型のネタだけど、1本目のほうに大きな意外性があったので若干2本目が弱く感じてしまった。和牛の女役はやはり素晴らしい、うますぎたんよ和牛は…とにかくそれに尽きる…「ウェルメイド」のレベルは超えてるんだけども…爪の先ほどの突破力の差…
松本人志も指摘してた、1本目の場面転換は、さらっとやってのけてるけどストーリーに重層性をもたせる演出で驚いた。それを突き詰めた形が、解散したガスマスクガールの「走馬灯」ネタなんだけど。

ジャルジャル
・福徳のあの悔しさの発露は胸にくる。コントの名騎手がどうやって漫才を乗りこなすか、彼らは本当に模索し続けている。今回のネタも彼ららしいしつこさと悪ふざけをぶち抜いて、後半へのクレッシェンドも演出して、、そりゃ悔しいよ。
・個人的に今回のM-1で一番笑ったのは、ジャルジャルの「ピーン!」「背筋伸びてるやん!」「ピーン!」の延々ループのとこでした。