也田貴彦blog

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オールタイム漫才ネタベスト10 ⑧流れ星「ひじ神様」

漫才の設定にもいろいろあるが、世にも特異なキャラクターなりシチュエーションなりのアイデアを思いつくことができれば、「デート」「医者」「美容院」など目新しさのない設定を持ち出すよりも当然アドバンテージを得られるのは事実だろう。笑い飯の「鳥人(とりじん)」などその最たるものだ。

「ひじ神様」もそうである。「♪腕と腕をつなぐ関節ひーじ!ひーじ!」という歌を思いついた時点で、相撲で言えばまわしを掴んだも同然だ。ただしもちろん、それだけで勝利が確定するわけではない。いかにキャラクター造形や設定に魅力があっても、構成に瑕疵があれば――かつてM-1グランプリで披露されたPOISON GIRL BANDの「鳥取と島根の違い」という素晴らしい着眼点のネタが、残念ながら展開の質において期待を上回れなかったように――あわれ、漫才の魔物にするりと身をかわされ土俵に手をついてしまうという場合も多い。

その点「ひじ神様」のネタでは、流れ星のふたりが終盤に強靭なスタミナと腕力を発揮している。最も勢いと重さのあるぶつかりをラスト1分間で見せてくれているのだ。前半はちゅうえいの唐突なギャグの割合が多いため、観客はそのアホさと散漫さにまんまと油断するわけだ。だが後半になるとひじ神様の祭を軸にして思いがけないサスペンスが展開し、びっくり仰天してしまうのである。この前半と後半のギャップの妙味にはこたえられない。わざと防御を緩め相手を誘い込んでおき、その倍の力で突如肉体を跳ね返し尻餅をつかせてしまうような心憎い戦術だ。演じる側としては首尾よく狙いがはまってさぞ気持ちいいことだろう。本当の相撲であれば客席で座布団が飛び交うところだ。

また「肘神様」という幼稚な設定に、こんな土着的・呪術的な味わいをもったストーリーを組み合わせるセンスも良い。かつて松本人志は「幼稚さに技術が加われば大きな笑いが生まれる」と語っていたが、まさにその実践版といえるネタだ。隣村のひざ神様まで登場するというオチの飛距離にも快哉を唱えたい。

 

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