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也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

オールタイム漫才ネタベスト10 ⑦千鳥「ブラックジャック」

2003年のM-1グランプリで千鳥が初めて決勝の舞台に立って以来、僕は数多くの千鳥の漫才を見てきた。彼らのネタは良くも悪くも野蛮だ。初期(2009年ごろまで)の彼らのネタは特に荒削りなものが多かった。冒頭に提示する発想は奇抜ではあるものの、あえて大きく展開させず最後までひとつの発想を引っ張ったり繰り返したりするネタが多い。(「エロ虫取り」「泥棒田泥男」「百拓クイズ」「おぬし、たわし、できちゃったムエタイ」「展開を全部先に言う桃太郎」…)。瞬発力で勝負し、漫才を整理することなど拒否していたということだろう。オードブルからメインディッシュへと盛り上げるようなフルコースではない。木からもぎ取ったリンゴをそのまままるかじりさせるような原始的なもてなしだ。そのリンゴにはいつも独特の風味と新鮮さがあり、僕などは病みつきになってしまったのだが、いかんせんリンゴだけでは飽きが来るのも事実で、豪華な正餐を期待している来客たちの舌と腹を満足させるのは難しかった。

そこで2010年ごろから彼らはネタの方向性を変えてきた。具体的には、ごく普通の漫才コント風のシチュエーションを導入に用いることが多くなったのだ。「旅館」「寿司屋」「医者」「通販」。僕は一見して、それによって彼らの持ち味が薄まるのではないかと危惧した。しかしそうはならなかった。彼らのクセの強さや良い意味でのしつこさは、漫才コントという箱の中に一旦入れられても、その箱を握り拳で破き壊してしまうほど抜群の躍動感をもっていた。それに"一旦箱に入れられる"ことが後半の爆発を準備するための導火線となっているという点で、結果的に構成の面でも巧みになったのだ。これは一般的なコース料理の手順を踏みながらも要所要所に最高級のリンゴの味わいを効かせるというワザに他ならない。彼らは自分たちのこだわりとアクの強さをそのままに、テクニックとホスピタリティを身につけたのである。THE MANZAIで好評を博した「白米(はくべい)」などはその一番の成功例だろう。

このネタもそうだ。導入やシチュエーションに目新しさがあるわけではない。しかし大悟の気狂いめいた振る舞いによって漫才はどんどん正規のルートを外れていき、最後には我々は思いもよらぬ僻地へと連れて行かれることになる。野蛮さのボルテージをあらわす曲線の、なんと急勾配なことか。「前髪を切ってマントをとれ!」「エクレアみたいにかかってるだけですよ」などノブのツッコミも調子がいい。思いきりグロテスクで徹底的にナンセンス、破格の面白さだ。

 

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