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也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

オールタイム漫才ネタベスト10 ⑥マヂカルラブリー「いじめっこ」

マヂカルラブリーの漫才は不穏だ。

ツカミからしてそうだ。ツカミというのは登場してセンターマイクの前に立った瞬間に観客を自分たちの世界へ引き込むための装置であり、「麒麟です」「お兄さんトレンディだね、うーんトレンディエンジェル」「小木です、矢作です、おぎやはぎですが何か問題でも」のように固定化した挨拶代わりのツカミを武器として持っているコンビも少なくない。マヂカルラブリーにもツカミはある。「村上です」「野田です」と普通に自分の名前をいうべきところで野田は普通には名乗らない。いわく、「僕です」「エントリーナンバー1番、野田クリスタルです」「その残像です」などなど。直後に「マヂカルラブリーです!」と声を揃えて言うところも決して揃わない。いびつだ。そして野田は無表情だ。見ている側としてはまず間違いなく、何か得体の知れない奴が出てきたなと思う。彼らのツカミは単に笑わせたり盛り上げたりするだけでなく、その後の数分間続くであろう不穏な漫才を予感させ、観客に期待感を植え付けるものであり、まさに導入としては理想的と言えるだろう。

彼らの漫才は始めから最後まで不穏であり続けることに成功しているが、その要因は大きく二つあると僕は考える。まず徹底して野田が”素”を見せないというところ。今回紹介するネタでは彼らがまともに会話する瞬間は一度としてない。特にコントに入っていない”繋ぎ”の部分でそれは顕著だ。ひとつのボケやシチュエーションが終わると、いったん素に戻って次のボケへの準備のために会話をするという漫才は世に多い。しかし野田はその繋ぎの部分ですらまともに返事をしない。『野田はおかしなことしか言わない』という構図が頑なまでに守られている。素の見えない変人は怖く、面白い。

そして今ひとつの要因は、繋ぎの部分での野田の唐突で不可解な言動に対して村上がツッコまないということだ。村上は漫才コントを進めるために野田にいろいろと指示を出すのだが、野田の発言がいちいちノイズとなって村上の言葉を妨害する。しかし村上はツッコまない。「サラリーマンになりたいよ」「門が開いた!」「太ってる!」「おはようございまーす」、これらに村上は何も対処しない。あるいはコント中においても、村上の乳房を触りまくる野田に対して何も言わない。野田を宙に浮かせる。不可解な言動が不可解なまま放置されるというのは気持ち悪く、観客の心はざわつき、じわじわとした笑いが生まれる。処理されない不気味な野田が漫才の中に沈殿し膨れあがっていくというのが彼らの魅力のひとつだ。

漫才師を香料に例えるなら、マヂカルラブリーは不穏さの香煙がきっちりと最後まで持続する、刺激的で危険な香料だ。とっつきやすいようにあえて香りと効力を薄くして観客にすり寄ろうとするコンビもいるが、別にリラックスするために漫才を見るわけではない。だから僕はついついマヂカルラブリーに手を伸ばし、その煙をくゆらせ中枢神経の興奮と心拍の亢進を楽しむのである。

 

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