也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

オールタイム漫才ネタベスト10 ①麒麟「小説風漫才」

復活したM-1グランプリ勝戦が今週末にあるということで漫才熱が高まってきて、無性に漫才のオールタイムベスト10を決めたくなった。

ただし順位はつけない。今回のタイトルも①と書いているが別に1位というわけではない。10作を決めるだけでも難しいのに、さらに順位をつけるなんてことは到底できない。

 

まず最初は、迷わず選んだ麒麟の「小説風漫才」。僕はこのネタをきっかけに漫才が好きになったと言っても言い過ぎでない。

2001年第1回のM-1グランプリでも披露された、野心的な構成をもったネタである。あたまからネタを見ていくと、大して力のない小ボケ、田村の長々とした一人芝居。前半では多くの人が「これは面白くないネタだな」と思うはずである。しかし中盤、川島の「小説を読んだら意外と面白くて夢中になったりする」「この漫才にも小説の要素を取り入れたらもっと漫才が分かりやすくなると思う」という合図を機に、漫才は大きく動き出す。前半部分で見せていた二人の身振りや発言に、小説的な川島の独白・解説が加えられることで、全く別の意味が付与されるのである。

ある場面で張った伏線をのちのち明るみに出して驚かせるという手法は映画や文学、漫画などでもよく使われるが、漫才ネタでここまで意識的に組み込んだものは、当時中学2年生だった僕は初めて見た。前半2分を完全にフリとして使っており、あえて笑いを捨てている。この試みは、4分しかないネタにおいては蛮勇といえる。そして後半の田村を"えのき小僧"に見立てて川島がアテレコをする部分は出色の面白さである。アテレコを効果的に使ったネタとしては、底ぬけAIR-LINEの「あてぶりショー」(二人がある場面を演じるが、実は二人の動きは全く関係ない歌謡曲の歌詞のとおりの動きになっており、その曲を流しながら種明かしをするというネタ)が思い浮かぶ。しかし「あてぶりショー」はそもそもアテレコをすることを前提としていくつも同じパターンのネタを繰り出すショートコント仕立ての作品だ。その点、麒麟のこの漫才では話の流れのなかで観客を裏切る要素としてアテレコが組み込まれており、より有機的な演出がなされていると言える。最後の「もうええわ」で終わるかと思いきやそこでさらに「田村の左手が僕の右の乳房を…」という川島の解説が加わるというのも、漫才の型を壊してしまえという覇気が感じられて良い。

このネタが第1回のM-1グランプリ松本人志に高く評価されたことにより、他の数多くの漫才コンビが手法を真似て「伏線回収」や「アテレコ」を取り入れたネタを披露していたのを知っている。いちファンとしては、そういった二番煎じのネタを見ると「これは麒麟の手法なのに」と歯がゆい思いもした。優れたネタがひとつ出ると、良くも悪くも、若手漫才師たちのネタ作りのモードをも引っ張ってしまう。

漫才は単に二人で馬鹿なことを喋りあうだけのものではなく、緻密な構成をもった舞台芸術になりうるものだということを、4分という短い枠の中で証明してみせた作品である。