也田貴彦blog

おもに文学やお笑いについて。

キングオブコント2018 感想

ネタ時間が4分から5分に変更されたことで、大会の色合いが少し変わった。近年のKOCでハネたネタには歌ネタや天丼ネタが多かったが、5分となるともっとボケや展開のバリエーション、勢いの持続のさせ方に工夫が要る。必然的に、構成力のある組が台頭してくる。

個人的に一番面白かったのはハナコの2本目。コントの新しい価値観の提示を見た。絶妙な余白と人間味。しかしそれ以外のネタも本当にクオリティが高くて、さらば、ロビンフットあたりはあのネタで最終決戦にいけないのは本当にかわいそう。1stステージの3位ハナコ、4位さらば、5位ロビンフットはそれぞれ1点差。それくらい拮抗していた。昨年までのように5位まで最終決戦進出だったら、さらばとロビンフットの2本目も見れた。見たかった。賞レースの神様のいたずら。それも含めて面白い。


やさしいズ。ボケの演技うまっ。現代の若者っぽい良いキャラ。「劇団?」「工業出てるんで」とかも本来のフレーズの面白さを演技で倍加させてる。展開にもう少しダイナミズムがあれば。


マヂカルラブリー。ゲーム好きの野田クリスタルっぽい面白い設定。同じシチュエーションが続くのに単調にならずクレッシェンドしていくのがすごい。


ハナコ。シンプルイズベスト。犬の演技120点。「犬が犬らしくない」という捻り方が、松本人志的な違和感を生む近代的コントの王道とすれば、これは「犬がむちゃくちゃ犬らしい」という、あえて違和感を全く生まない面白さ。原点回帰というか、この古臭ささが新しいというか。


さらば青春の光。鼓舞するだけの人。さすが着眼点の雄。こんな設定どうやって思いつくんやろうと、毎回思わせるのが本当にすごい。哀愁も良い感じ。後半に予想外な展開かボケの上乗せがもう少しあれば。充分最終決戦レベルなんだけど、さらばだからこそ多くを求めてしまう。


⑤だーりんず。他の組に比べるとやや設定が弱いか。展開のレンジももうちょっと欲しくなる。その場にいない店長の存在感は良い。


⑥チョコレートプラネット。「教えろ」や「器具装着」のくだりを延々やっているように見えるが、「場所や名前を正直に教える」「知らない匂い・器具」「別人物登場」など多様で細やかなボケ・展開を乗せてるからこそ、天丼のバカバカしさが際立つ。かぶせとずらしのバランスが絶妙。


⑦GAG。いつものように福井の大げさなツッコミで笑いを取りに行くスタイルで、強いフレーズも多いんだけど、どうしても宮戸と坂本がレシーブ・トスに徹しすぎているように見える。三人いるのだから、アタッカーを誰に担わせるかで裏切りを仕掛けてもいいんじゃないか。


わらふぢなるお。客席の笑いの量はそうでもなかったけど、俺はすごく好き。「空質問」という一点押しだが、この不気味なディスコミュニケーションには文学性がある。メルヴィルバートルビー的な世界観。「これ店長の背中ですか?」も、こわおもしろい。


⑨ロビンフット。設定の小さな種を並外れたところまでエスカレートさせていくタイプのネタで、さらばの「ぼったくり」ネタに近い構造だが、年齢を判断する基準のチョイスがいちいち面白い。ツッコミの間・緩急もうまく、さすがベテラン。結びの音楽の使い方も完璧。


⑩ザ・ギース。さすがセンスのいい設定で引き込まれる。高佐が犯人だと分かってからの展開とボケに、もうひとこえバリエーションがあれば言うことなし。


最終決戦①ハナコ。見事。あえて説明しない余白の面白さに、青春文学的な味わいをミックスした世界観。ラストも余計なボケを入れたくなるのをぐっと堪え「女子、ムズー!」に繋げきる勇気。そう、人間はムズい。コントも小説も、人間のエッセンスがしっかり描かれている物が面白い。


最終決戦②わらふぢなるお。しょうもない超能力という設定は他に類を見ないというほどではなく、超能力の種類が乱発するのもちょっと軸が定まらない感。


最終決戦③チョコレートプラネット。要は「最先端の大工道具とは?」という大喜利の答えを並列的に配置する構造なので、どうしても単調に見えてしまう。


M-1グランプリ2017 感想

こんなに観ていて疲れる番組は他にない。今年は特に芸人たちの本気がびしびし伝わってきた。とろサーモンの涙、和牛水田の悔しげな表情、ジャルジャル福徳の「おまえよく今ボケれるなあ」という一言。芸人たちは本気で演じる。こちらも本気で観る。もはや笑いを超えている。生き様。

①ゆにばーす
今まであまりマークしてなかったんだけどトップ出番であのウケはすごい。ネタは王道で、個人的にはもっと破壊が見たいけど、翼の折れたエンジェルをただただ歌うあのエゴは素敵!「こんな戦争は嫌だ」「戦争は全部イヤ!」もいいよね。人間味の垣間見えるボケ大好き。

②カミナリ
昨年からマイナーチェンジしてきてよくなっていた。上沼のダメ出しは身もふたもないようだけどさすが本質を捉えていて、昨年のスタイルよりも間合いが詰まっているのでどつきの意味合いが薄まっているのは確か。そしてそのダメ出しをすんなり受け入れる素直さがすごく良いw

とろサーモン
・まさに漫才人生の集大成という感じ。お得意の「続行」「継続」、寄生虫のくだりや猿を呼ぶ声、焼き芋の教祖はまぎれもない「久保田節」。やっぱり表現ってそういうことやで。自分流を貫く、貫いたもん勝ち。
・ネタは面白いだけでなく、作り手のエゴがにじみ出ているものが俺は好きで、他人からの理解が得られるかとか度外視で、それを表現したくて居ても立っても居られないというどろっとした濃厚な内的なエキス、それが唯一無二の味わいとなる、とろサーモンには確かにそれがある。

スーパーマラドーナ
順当に決勝に行っていていいレベル、ただやっぱり田中の一人芝居形式は頭打ちなのかも。あの田中のサイコパスさ、新人類的な飄々としたキャラはさらにいろんなタイプのネタでも活かせる、もっと広がり・可能性がある、酷だけど武智、もっと試してほしい!

かまいたち
しゃべくりの応酬は好きだけど、有名な物語の腑に落ちない部分にツッコんでいくという漫才の手法は珍しくないので、印象に残りづらかったかも。「わたし、卍?」「いやそんなに卍じゃないですよ」の意味不明さは最高。

マヂカルラブリー
「算数」のほうをやってほしかった!でもマインドは絶対にあれでいい、上沼恵美子のダメ出しで変に迷走しないでほしい、単調さだけを改善すればいい。ていうか上沼恵美子は芸人なんだから笑いを交えてダメ出しをしてほしいw その点松本の「ここはスキップします」はさすが。

さや香
ポップで華がある。あの大舞台であのテンション、よく出せた。構造は単純なんだけど派手な演技でのパッケージングが巧み。プロモーションが上手いタイプ。

⑧ミキ
今まで昂生のトーク以外でネタはあまり面白いと思ったことがなかったけど、1本目は良かったなあ、「鈴木」の字だけであんなにヒートアップ。キングオブコントかまいたちウエットスーツもそうだけど、くだらん些細なことだけで延々ムキになってやりあうのってやっぱり面白い。

⑨和牛
・和牛はうまい。うますぎた。昨年より強いボケが出ないところを超絶技巧でカバーしてしまった。1票の差はそこに出た。おもろいもんぶつけたろやないかという良い意味での傲慢さみたいなところは確かにとろサーモンが優った。しかしどっちも生き様、どっちも生き様なんよこれは。
・和牛は3回戦、準々決勝、準決勝、決勝、最終決戦、全部違うネタをぶつけている。これは本当に、本当にえぐいこと。勝負ネタが年に5つ。漫才の怪物。その怪物が、自らの怪物的な技術力を制御できなくなった。食うか食われるかの戦いで、和牛は知らないうちに自分自身を食ってしまった。
・1本目も2本目も伏線回収型のネタだけど、1本目のほうに大きな意外性があったので若干2本目が弱く感じてしまった。和牛の女役はやはり素晴らしい、うますぎたんよ和牛は…とにかくそれに尽きる…「ウェルメイド」のレベルは超えてるんだけども…爪の先ほどの突破力の差…
松本人志も指摘してた、1本目の場面転換は、さらっとやってのけてるけどストーリーに重層性をもたせる演出で驚いた。それを突き詰めた形が、解散したガスマスクガールの「走馬灯」ネタなんだけど。

ジャルジャル
・福徳のあの悔しさの発露は胸にくる。コントの名騎手がどうやって漫才を乗りこなすか、彼らは本当に模索し続けている。今回のネタも彼ららしいしつこさと悪ふざけをぶち抜いて、後半へのクレッシェンドも演出して、、そりゃ悔しいよ。
・個人的に今回のM-1で一番笑ったのは、ジャルジャルの「ピーン!」「背筋伸びてるやん!」「ピーン!」の延々ループのとこでした。

M-1グランプリ2017敗者復活戦 感想

1、ランジャタイ。個人的に最近大注目しているコンビ。しょっぱなから無茶苦茶なネタw さよならポンポン、575シチシチィ!!狂気の繰り返し。クスリでもやってるんじゃないかと思わせる危うさが魅力の、漫才界のアウトサイダー

2、笑撃戦隊。入り方が新しい。「刑事の取り調べやりたい」「野球のヒーローインタビューやりたい」、それぞれではベタな漫才コントだけど、2ついっぺんにやるという発明。ボケとツッコミの順序を逆にする代表作を含め、いろんな方法論を生み出していて感心する。

3、からし蓮根。自転車担いでるとか、蹴った後の「爪きれいね」とか、光るボケがいくつもある。ツッコミの間合いもうまい。ただ高校生の恋愛という設定がベタすぎて印象には残りにくい。

4、Aマッソ。女性漫才師としては貴重な、ワードセンスとシュールな設定で勝負するコンビ。今回も「文化に触れな侍」という得体の知れない設定w「主君は時の流れ」「絵画はもう鮮度を優先するところまできてるね」Aマッソ節を頑なに貫いた。

5、三四郎。相変わらず小宮のワードチョイス頼みだけど、俺は嫌いじゃない。「脆弱なボケしてくんじゃねえよ」「驚くべきしゃべり量」「耳の始まりを押さえるな」「爆笑であれ!」「故人かおまえ」酒のツマミにしたくなるようなワードが満載。

6、東京ホテイソン。一つ一つのツッコミにあえて大いに注目させるスタイルなので相当ハードルが上がるが、形式が奇抜なだけでなく、ワードがよく練られていてハードルを毎回超えてくる。今後が楽しみ。

7、アイロンヘッド。「お互いの独り言が全部聞こえてくる」という、コント師らしい良い設定のなかで遊ぶ佳作。ただ展開はけっこうおとなしく、後半にさらに大きな展開が見たくなる。

8、セルライトスパ。これもからし蓮根と同じく、面白いボケの粒はたくさんくっついてるんだけど、レンタカー屋という設定のありふれ感をかき消すほどではない。やはりとろサーモンを見た後だと、味わい・奥行き・こだわりの差に目がいってしまう。

9、囲碁将棋。毎回違うパターンを繰り出してくるコンビで尊敬している。予選でもやっていたネタだが、ダブルボケから文田だけがボケるスタイルに変えて見やすくなっていてよかった。目のつけどころも面白く、悪ふざけ感もいい。

10、天竺鼠。ツカミからして最高。川原の一言一句が、一体どこから出てくるのか、ソースがわからないw すべての物事の裏側ばっかりまわって、まだ見つかっていない笑いを引きずり出してくるような印象。もはや漫才師超えて魔術師の域。

11、霜降り明星。今年しょっちゅうやっている彼らの代表作とも言えるネタ。粗品のツッコミの絶妙なタイミングと、体言止めのワードチョイスは秀逸。「おまえ人殺したんか」のクリティカルヒットは何度見ても面白い。

12、見取り図。後半の「あたおか」押しは大好き。ここもツッコミがふざける感じがあって良い。ボケのリリーにもうちょっと色合いが出てくれば化けるコンビだと思うが。

13、ハライチ。澤部の演技と力技で独特の味を出していたが、「隣の人にしゃべっている」の天丼で押し切ろうとするのは少しきつかったか。後半岩井が一分くらいずっと黙っている勇気は好きだけど。

14、南海キャンディーズ。今回の敗者復活を見てもワード捻り型ツッコミの漫才が着実に増えている、その潮流の源の一つが山ちゃんであることは明らか。もはや彼らのネタがどうこうというより、南海キャンディーズが残した功績は計り知れない。

15、さらば青春の光。彼らが得意とする、漫才の作法を逆手に取ったような着想のネタだが、個人的には今回は少し導入でリアリティーがないなーと思ってつまずいてしまった。展開の幅ももう少し欲しかった。さらばだからこそ多くを求めてしまうんだけど。

16、大自然。正直、準決勝の順位、なんでこんなに上にくるのかな?と思ってしまった。最初に出て来たときはインパクトあってすごく面白かったけど、同じ鋳型のネタばかりで最近は食傷ぎみ。いろいろ試してほしい。

17、ニューヨーク。同じことの繰り返しなんだけど俺はちょっとハマったw どうしても壁を殴ってしまうという危うい人格をはらんだ感じが、なんか噛み応えがあって好きだった。

18、相席スタート。山崎の恋愛テクニックレクチャー形式で、ちょっと理屈っぽい感じがして爆笑はできなかった感。彼らのネタは恋愛ハウツー本的な要素が多いが、二人でそういう本を出したらけっこう売れるんじゃないか?w

19、スーパーマラドーナ。強いボケもあり、二人の素のキャラもうまく活かされており、構成もしっかりしていて、申し分ない。ただ、これは本当に酷な話なんだけど、「驚き」はない。俺は下手であっても、驚いたり戸惑ったりする得体の知れないネタの方が好き。

R-1ぐらんぷり2018 感想

Aブロック①ルシファー吉岡。設定のひねりもあり、演技もしっかりしてるし、強いフレーズもある。「生姜をオカズにしてるのか?」「女性の裸じゃなくて、冷え性の味方」充分いいと思うけどなー、後半に大展開があればなお良かったのかしら。

Aブロック②カニササレアヤコ雅楽版「細かすぎて伝わらないモノマネ」か。淡々とした雰囲気づくりと物珍しさで笑わされるけど、どこかで見せ方の変化や爆発ポイントがつい欲しくなる。

Aブロック③おいでやす小田。設定はプレーンなんだけど、さすが怒りのボルテージの持っていき方が鮮やか。どの電話も下手すると本当にありそうな内容で、観てる側が怒りに共感できるのでこのくらいが良いのかな。個人的には、もっとクセのある電話でもよかった。

Aブロック④おぐ。宮迫の「間接的な自虐ネタ」というのは言い得て妙。ハゲが別人に扮してハゲへの偏見を言うという構造。「ハゲなのにルンバ」。話者をずらすことで単なる自虐よりも押し付けがましさが軽減され笑いやすくなる、なるほどなーと。あと音楽の使い方うまい。

Bブロック①河邑ミク。演技の切り替えが絶妙。レンタル彼女という設定も現代的でいい。ただ展開は想定内に留まったかな。

Bブロック②チョコプラ長田。理不尽な音声にツッコむネタは多いけど、小道具でも理不尽さを足してきたのが新しい。機械的に進行していく相手に翻弄される滑稽さが、手数多く緻密に描出されている。最後はもっと派手にぶっ壊れてもよかったかも。

Bブロック③ゆりやんレトリィバァ。昭和の女優。終始「おまえこのキャラやりたいだけやろ」というような雰囲気が素敵で、あざとくボケずにキャラに入り込んで笑わせる、友近的方法論のネタ。木登りという場面作りのナンセンスさもいい。

Bブロック④霜降り明星せいや。そうかー、オールザッツでやってた、延々無茶苦茶やるバージョンはさすがに賞レースではできないか。それぞれのネタの最後に自分でツッコむ形式にして、シュールさが薄まった。オールザッツのは紛れもなく新時代を告げるネタだったけどなー。

Cブロック①濱田祐太郎。「視覚障害者が自分の耳疑うことなんてそうそうない」「見えへんけど二度見しました」純粋に人を笑わせたい心意気が伝わる堂々とした漫談。悲壮感や卑屈さ、気の毒さを全く感じさせない立ち振る舞いがすごい。生き様を笑いに変える格好良さ。

Cブロック②紺野ぶるま。女芸人グランプリのときと同じタイプの、高飛車な女キャラ。単に高飛車なだけでなく、そんな自分をどうにもできないというある種の悲しみがあって好きだが、見る人によっては嫌味なのかな。「腹立つけど憎めない」の「憎めない」をどう出すか、か。

Cブロック③霜降り明星粗品。持ち味である「ニッチなボケをツッコミで気づかせる」タイプの、センスのみなぎる細部の連発するなか、しょうもないダジャレも入れる緊張の緩和も完璧。ただ脈絡のない単発の羅列なので確変笑いには繋がりにくいか。

Cブロック④マツモトクラブ。いつもの人情味のあるストーリー仕立てコントで、持ち味は発揮されてるんだけど、裏を返せば驚きがない。「マツモトクラブらしさ」に捕らわれてるように感じてしまう。異能の持ち主だと思うし、もう一段階、裏切りや破綻や無茶が見たい。

最終決戦①おぐ。一本目のアンサーネタという趣は、工夫されてるといえばそうなのだけど、一本目のボケを裏返したタイプのボケが多く、さらなる別展開が見たかった。

最終決戦②ゆりやんレトリィバァ。彼女の魅力は、ランダムに繰り出すあるあるではなく、何の脈絡もなくダンスを踊り出す部分のような、「やりたいからやる」という図々しさと度胸にこそあると思う。

最終決戦③濱田祐太郎。盲学校の生活にツッコむ内容だけでも新鮮で面白いが、フレーズもよく練られてる。「何このスパルタ教育は」「心の目で見えたら盲学校きてないねん!」どんな境遇でも笑って暮らせるんよな。それを教えてくれてありがとうと言いたくなる爽快な優勝。

キングオブコント2017 感想

わらふぢなるお
コールセンター。特異なテーマのないプレーンな場面設定をボケで埋めていくネタは、なかなかハードルが高い。この方法でいつも爆発させられるのはサンドウィッチマンくらいだろう。相手の姿が見えない(はず)の状況を利用したいくつかのボケは面白かった。

 

ジャングルポケット
舞台装置の使い方が秀逸!エレベーターの特性をうまく活かしたネタ。早く上に上がりたがっていた斉藤が二人の会話に興味を持ち始める部分の、ハンドルの切り方も鮮やか。

 

かまいたち
コントの約束事を逆手に取ったツカミ。般若の刺青。突然のスタンガン(笑)。意表を突く細部の連続が気持ちいい。ラストのホラー味のあるループは圧巻。いろんな要素の詰まった文句なしの秀作。

 

アンガールズ
知名度があるだけにどうしてもハードルが上がるけど、無名で出てきたらインパクトあると思う。どのネタでも二人のオリジナリティが活きている、素と演技の境界を取り払うのがとてもうまいコンビ。気持ち悪いだけじゃない、脱力系コントの先駆者ですよ。

 

パーパー
女性の方が笑いに全く絡んでいない点など、いろいろ改善点はあるけど、マルチ商法のくだりはすごくいい。きっと、ほしのディスコの雰囲気に合うもっと良いシチュエーションとキャラクターがあるんだと思う。他にどんなネタがあるのか見てみたい。

 

さらば青春の光
「こんなシステム誰が思いついたん!?」という森田の台詞がそのままこのネタへの賞賛の言葉になる。こんな設定よく思いつくよなあ。居酒屋で似たようなことがあって思いついたんだろうか。日常から拾ったアイデアのきっかけを見事に膨らませる職人コンビ。

 

にゃんこスター
お笑いでも演劇でも、観る人を揺さぶって驚かせたり戸惑わせたりがすなわち表現ということ。コントとはこうあるべきみたいな「良識」がひっくり返る瞬間を見た気がして爽快だった。この天真爛漫さは見たことない。良い意味で、キングオブコントをなめすぎ。

 

⑧アキナ
好き。癖になるネタ。ただ設楽の言うように、もっと怖さが突き抜けてもよかった。断片的なシーンの貼り合わせ、無機質な怖さに加えて、何かダイナミックな、それこそかまいたちのスタンガンみたいな、突拍子も無い怖さがあってもいいんじゃないか。

 

GAG少年楽団
核となる設定の馬力が少し足りなかったか。にゃんこスターを見たあとというのもあるが、大人しいというか真面目というか、想定内のネタという印象をもってしまった。演技がしっかりしてるので何か一個乗っかれば爆発するトリオだと思うんだけど。

 

ゾフィー
これもGAGと同じく、設定の求心力が惜しい。「母がいなくなった」ことよりどうでもいいものを優先してしまうという笑わせの仕掛けだが、「飯食いたい」が最善かどうか。もっとアホなチョイスもできたと思う。カップラーメン見つけた時の取り乱しっぷりは秀逸。

 

2nd①アンガールズ
状況説明のセリフに時間をとられて笑わせどころが少なくなった感はあるが、「俺は法律の中で暴れてるだけ!」のフレーズは最高。ストーリーがしっかりしていて好感。ただ後半はさらなる大展開を見たかったかな。

 

2nd②ジャングルポケット
ロッカーにぶつけるシミュレーション、音に反応するボス。個人的には1本目のシチュエーションの方が斉藤の演技に微妙な心理の変化が入りこんでいて好きだったが、動きを活かしたネタ作りが本当にうまい人たち。

 

2nd③さらば青春の光
パワースポットなのに不幸な警備員。哀愁というか切実さをはらんでいて、笑えるんだけどどこか泣けてくるような人間くささ、味わいのあるネタ。しかし森田は不幸なキャラがよく似合うな笑

 

2nd④かまいたち
ウエットスーツが脱げないというだけのことで大の大人2人が延々必死にやりあってる有様はやっぱり笑える。「目処が立ってんねん!」は今大会の最優秀フレーズ。本当にいろんな引き出しをもっているコンビ。

 

2nd⑤にゃんこスター
1本目と全く同じで押し切ったのは、自分たちの存在感を強調するための計算なんじゃないかな。記録よりも記憶に残しにいった。コンテストに合わせるのではなく、コンテストを利用して自分たちのやりたいことをする。表現者として誠実な傲慢さだ。

R-1ぐらんぷり2017 感想

Aブロック

レイザーラモンRG

渋谷と新宿のドラッグ→ドラッグストアからのこんにゃくゼリーワゴンセールへの脱線、静岡民全員テロリストの理由おもしろい。ただこのパターンならもっとたくさんの地域をいじってほしい。10分くらい欲しいネタ。

 

横澤夏子

これも持ち時間の短さがかわいそう。一人芝居のうまさを見せるタイプの芸人さんはこの短さではなかなか伝わりきらない。母親のキャラはもっと癖があるほうが好きやなー、例えば同じシチュエーションで友近ならもっと激しいお母さんをやるだろうなとか思ってしまった。

 

三浦マイルド

すごくよく練られてるが、見せ方はこれが最良なのか?手数を増やすために矢継ぎ早にフリップ出す戦略だろうが、緩急をつけて特に面白いフレーズをもっとフィーチャーしてほしかった。「この計算方法びっくりするだろ?」とか相当面白いのに、もったいない。

 

サンシャイン池崎

「とうもころし、オッケーーー!!!」は最高なんやけど、なんか今日は全体的にテンションがMAXより若干落ちていなかったか?去年よりインパクトが落ちるのをツカミで逆手にとるのはうまい。勢いだけと言われようが、勢いだけを極めるのはすごいこと。

 

 

Bブロック

ゆりやんレトリィバァ

森ガール的なシチュエーションとゆりやんの出で立ちのアンバランスさは面白いけど、繰り出される断片的なあるあるとシチュエーションの関連がなさすぎて、そのなさすぎる感じがナンセンスでいいのかもしれないが、もうちょっと有機的な場面作りをみたかった。

 

石出奈々子

「もしもジブリのヒロインぽい子が大阪に行ったら」という題目を忠実に演じていて好感。コントの基本形「もしも〜が…だったら」の強さを再認識。短い時間に序破急がきちんと詰まっている。不思議→不思議→掛布の遊びも良い。ただジブリを知らない人には伝わらない。

 

ルシファー吉岡

シチュエーション作り、ワードセンスともにすごい。「もっと歴史と距離置こう」「こんなんじゃ信長のとこ耐えられないよ」。序破急の破があればなおよかった。これも持ち時間がもうちょっと長ければ…

 

紺野ぶるま

21歳モデル一人暮らし→人の金でゴルフしてる、みたいな偏見に満ちた決めつけは面白いんだけど、客のプロフィールを聞く部分で間が空いて、ひとつひとつが単発の笑いになるのが惜しい。占いの結果のところに笑いのポイントが集約されるのもなかなかハードルが上がる。

 

 

Cブロック

ブルゾンちえみ

キャラクター造形の面白さもさることながら、音楽の演出がすごくうまい。この人が魅力的なのは、きっと本人自身が好きでたまらないタイプのキャラクターを素直に演じてるからじゃないかな。本人が楽しんでやってるのが伝わってくるもんね。

 

●マツモトクラブ

お得意の独白型ナレーションや、他人の音声を交えた奥行きのある物語空間。今回は哀愁の要素が薄めで、少し物足りなさを感じてしまったが、ネタに確固たる「らしさ」のある人なので尊敬している。

 

アキラ100%

芸人さんのネタを見ていると、仮に自分が芸人になってこのネタを思いついて練習して、同じくらい面白く演じられるだろうか、とか考えたりする。それで言うとアキラ100%のネタは、僕には絶対にできない。ある意味、シルクドソレイユみたいなもの。僕は拍手する。

 

●おいでやす小田

「真に受ける」というテーマ一本で展開していく一人芝居。ショートストーリーとしての核がしっかり提示されていて、好きなタイプのネタ。これもルシファー吉岡と同じく、後半に大展開があれば言うことなしだが…総じて持ち時間の短さが惜しい。

 

 

ファイナルステージ

サンシャイン池崎

「でっかい剣持ってる系男子あるある」。ナンセンスすぎて俺は一本目より好き。展開もへったくれもない、構成的なネタへのアンチテーゼ。これも才能。

 

石出奈々子

悲しいかな、キャラクター設定と笑わせ方が一本目と変わりばえせず。ジブリありきの設定にこだわらず、演技力ありそうなのでいろんなキャラクターを試してほしい。

 

アキラ100%

プロフェッショナル。何がすごいって、この芸を極めようとして心折れることなく練習を重ねる、その倒錯した意気込みがすごい。アホなことに真剣に取り組む見本。

 

 

今回はネタ時間の短さが特に気になった。3分に起承転結を詰め込むのはなかなか難しい。インパクト重視のネタが強くなるのは必然。M-1のように4分あればもっとR-1の包容力が上がるはずだが。

 

M-1グランプリ2016 感想

M-1という大会、それに漫才師への愛と敬意を込めた、自分なりの真摯な感想です。偉そうな知ったかぶりみたいなことばかり書いていますが、僕は決勝進出したしないに関わらず、プロの漫才師のすべてを激しく尊敬しています。

 

① アキナ

「大人びた5歳児」のキャラクターショーとも言えるが、台詞がよく練られていて演技もとてもうまい。山名はキザな役が得意だけれども、それが見事にハマったネタだ。彼らは今回のM-1では3回戦・準々決勝・準決勝と全てこのネタ一本で勝ち進んできているのだが、確かにそれを可能にするくらい完成度が高い。最終決戦に一歩及ばなかった原因を探すとすれば、笑いのトリガーの役目が、全面的に山名のキャラ・台詞に委任されてしまっている点だろうか。ツッコミのバリエーションによって生み出される笑い、あるいは掛け合いによってリアルタイムに捏ねあげられる笑いの上乗せがあれば、点数はさらに伸びたんじゃないかと思う。また達観したキャラクターの5歳児というのは設定として面白いが、心情に起伏がないのでプロットにうねりをもたせるのに苦労はするだろう。最後のあだ名の話で泣き出すところみたいな、起承転結でいう「転」を、もう少し手前から仕掛けていれば漫才は大きく動いたのかもしれない。しかしボンドのくだりは相当な破壊力!!

 

② カミナリ

いい意味で、数式的な漫才だと感じた。このネタに登場する全てのボケとツッコミを、矢印で繋げたり()や{}で囲ったりしながら、構図を分析したい欲求に駆られる。一つのボケ−ツッコミのなかに、入れ子式に別のボケ−ツッコミが嵌りこんでいる構造が粋だ。しかもそれぞれが一対一対応ではなく、すでにツッコみ終わったボケに対してのちほど違う角度から再びツッコんだりもするので、ひとボケで二度美味しいというか、ざるそばを食べ終わったつけ汁にそば湯を注いでまた味わうというような楽しみ方もできるのだ。

一つのボケを泳がせて泳がせて、あとから大きくツッコむという、この形式だけでいえば実はそこまで新しいわけではない。例えば去年のM-1でのジャルジャルのネタも、一つのボケをしばらく放置して後々ツッコむというシステムを効果的に組み込んでいた。また初期の銀シャリのネタにも、前半で鰻がひとしきりボケたうえで、後半で橋本がひとつひとつのボケを順番にツッコみ回収していくというものがある。カミナリの場合は、この「泳がせてからのツッコミ」のシステムにプラスして、上に書いたような図式的構造を巧みに持ち込んでいるところにこそ、本当の独自性があるのではないだろうか。

彼らのコンストラクチュアルな笑いのセンスは、そのままでも十分通用する魅力をもっているはずだが、頭を思い切りひっぱたいて大声でツッコむというアホっぽい演出で全体をあえてくるむことにより、クレバーさをうまく隠して敷居を下げてくれている。そういうプロの道化めいた姿勢も含めて、男前である。

 

 

③ 相席スタート

合コンを野球になぞらえたコント。アナウンサー役の山崎は女性を様々な球種に例えて実況する。バッターに扮した山添はその球を振るのか振らないのか…。コントの最中はツッコミ不在のダブルボケになっており、コントの額縁がしっかりしているので、個人的には好きな形態だ。

「かわいいのに元彼のタトゥー」→「急にコースが変わりましたね」、「結婚相手を見つけにきました」→「危険球、バッターが幹事を睨んでおります」、このあたりの発想は実にハイレベル。だからこそ、こういう小気味良い発想がもっともっと出てきてほしいなとつい期待してしまう。また打席が終わってから毎回アナウンサーから選手へのインタビューの場面が挟み込まれるが、あそこでどうもワンクッション空いてしまう傾向があり、幾分もったいなさを感じてしまった。

とはいえ男女コンビであることの必然性をもった良いネタだし、山崎は嫌味さのない微妙な色気を出せる唯一無二のキャラクターなので、さらに趣深い独自のネタを作り出してくれることと楽しみにしている。

 

④ 銀シャリ

僕はたまに橋本が、一本の骨をくわえ込んで離そうとしない貪欲な犬に見えることがある。ここでいう骨とはボケのことである。たったひとつのボケに、彼はよだれを垂らして食らいつき、あらゆる方向から舐め回して、まさに“ボケの髄までしゃぶる”とでもいうような格好なのだ。

例えば「♪ド〜は動物のド〜」というボケに対して、橋本はどれだけ多くの言葉を尽くしてツッコむことか。「それ、やったらあかんねん」「表紙をp1とカウントすな」「厚紙のとこやから」「そっから細分化されていくから、様々な動物へと」「『動物』ってアバウトやろ、来年の干支なんやったっけ、うん動物、言うか」「表紙やから、地主さんやからこれ、大本やからね」…この腕力たるや。ボケをずいぶん長く引っ張っているにもかかわらず、見る者にしつこさを感じさせずに、いやむしろ、しつこいなと思わせながらも笑わせてしまうというのは、”しゃべくりの豪腕”の最たるものだ。抜群のワードセンスもさることながら、実に気持ちよさそうに、本人がノリにノッて言葉を操っている雰囲気こそが、松本人志の言う「腹たつ」ほどの面白さを現出しているのである。

鰻の持ち味である可愛げのあるおとぼけが前半から快調で、しかも後半になるにつれ橋本のツッコミ力が爆発する仕組みになっていたこともあり、構成の面でも文句なしの、惚れ惚れするようなクオリティだった。

 

⑤ スリムクラブ

『アンダー18歳以下の天狗』。上沼恵美子の「無理があった、飛びすぎ」という評が、まあ確かに、という感じ(笑)。

2010年の彼らのネタのテーマは『以前一緒に生活していたと言い張る人』、『街で一回見ただけの人の葬式に来た人』だった。これらの設定には、真栄田の演じるキャラクターの得体の知れない不気味さ、どこか哀しい切実さ、ゆえに対処する内間の非常な困惑、のような要素が詰まっていた。ありえないシチュエーションのはずなのにどこかリアルな、ざらついた手触りが確かにあって、その手触りこそが面白みの核だったようにも思う。その点今回の天狗の設えは、いかんせん少し子供っぽいというか、不気味さ・切実さ・のっぴきならなさみたいな部分がちょっとずつ薄まっていて、そのぶん、戸惑う内間への観客の共感も、若干のトーンダウンを余儀なくされたというところだろうか。二人の会話のテンポがちょっと早くなっているのも気になった。

スリムクラブの漫才はそろそろ曲がり角に来ている頃と思う。「ばあちゃんを2WDに戻してください」「家族のトーナメント表」「おばあちゃんのところから線引いて、シードって書いてある」こういうずば抜けた発想力はやっぱり天才的なので、違ったフォーマットにまたもや驚くような形で自らの才能を盛り付けるスリムクラブを見てみたいと、つい贅沢な願望を抱いてしまう。

 

⑥ ハライチ

自分の意図がうまく伝わらないままゲームが先へ先へと進んでいってしまう、そのもどかしさと焦りを、さすが芸達者の澤部が非常にうまく間抜けに演じてくれる。ただ、どこまでいっても題材がゲームなので、さっきのスリムクラブの話ではないが、澤部の困惑に切実さがあらわれてはこない。僕個人の好みの話でしかないが、人間とゲームの間に生じるずれよりも、人間同士のディスコミュニケーションの方が面白いのになあと、どうしても思ってしまうのだ。現実世界の人対人は、ゲーム以上に融通も修正も効かない。だからこそおかしく、哀しく、ドラマチックなんじゃないだろうか。

何かに翻弄される役柄を担うと爆発的な面白さを発揮する澤部だ。岩井は無感情であることが多く、それはそれで好対照なのだが、もっと積極的に澤部を困らせ、もがかせてほしい! 今後岩井がなにかしらの方向へ突き抜け、澤部のキャラクターをなお一層活かすことができれば、泥臭い人間喜劇の傑作が出来上がるだろうことは想像に難くない。その「なにかしらの方向」が何なのかが問題なのだけれど。

 

⑦ スーパーマラドーナ

田中の一人芝居に対して武智が状況を解説しつつツッコむという、ここ1〜2年の彼らのネタではおなじみのフォーマット。虚弱そうな田中がサイコパス的な人格をみせるというギャップが怖くもあり面白く、安心して見ていられる。ただ去年の感想にも書いたのだが、武智の立ち位置が常に外野であるため、二人の間に掛け合いが生まれる機会がなく、そこが僕個人としては小腹のすくところだ。

伏線の張り方が実に巧みで、ネタ作り担当の武智はかなりの策士という印象。ボケのクオリティも高い。「四頭身」の天丼は、ちょっと過剰なきらいはあったが。オチをおざなりにする若手漫才師が多いなか、ネタをまるごとひっくり返すあの見事なオチには快哉を唱えたい。

 

⑧ さらば青春の光

「漫画みたいな話」があるなら、「能みたいな話」もあるんじゃないか。そこの発想一本勝負で最後まで突っ走る潔いネタ。一つのアイデアにしつこいほどこだわったネタ(ジャルジャルのコントが良い例)は、芸人さんの「やりたいことだけやりたい」感じ、笑いに対する純粋さ、芸術家的な傲慢さ、みたいなものがにじみ出ていて、僕は大好きだ。能、浄瑠璃、キャッツ、こういうバリエーションが他にもあといくつか、思わぬかたちで入ってくれば、なお一層楽しかっただろう。

ひとつの着想を最大限に活かすタイプのネタを構成する、この力においてさらば青春の光の右に出るコンビはいない。こっちが胃もたれするくらいに濃厚な核をもったネタ、面白がるポイントを蒸留したような、不純物のないネタを、これからも引き続き作っていってほしい。

 

⑨ 和牛

そもそも僕はコント漫才に対してはあまり良いイメージを持っていない。コントに入るならセンターマイクの前でなく最初からコントでやればいいやんと思ってしまうから…なのだが、とはいえこんなにハイクオリティなコント漫才を見せられたら、ぐうの音も出ないというのもまた正直なところだ。

ツッコミの川西の技術には舌を巻く。川西は完璧に女の子の役柄に入り込んでいて、ツッコミ台詞もそのキャラクターから逸脱しないままに繰り出される、ゆえに物語に破れ目がなく、観客は終始二人の世界の内側にかくまわれた状態でいられる。例えば水田が、サービスエリアでゴールドカードを差し出しつつ「2回払いで」とボケたとき、川西はただ唖然として助手席の水田を見つめる。川西は川西としての反応ではなく、本当にびっくりした女の子のリアルな反応をみせているのだ。観客のスムーズな共感は、爆笑を生むための有用な誘い水だ。単なる漫才の「ツッコミ」という役割を超えた川西の確固たる演技力こそ、和牛のオリジナリティの最も重要な要素のひとつだと僕は確信する。

個人的な好みでいうと、水田の嫌味なキャラクターがより濃厚に出ていた昨年のネタの方がアクが強くて好きだったのだが、今回彼らはフラットなキャラクター設定であるという弱さを、超弩級のテクニックで凌駕してしまった。昨年少し気になった、川西が水田へ返答する直前にワンテンポ空いてしまう感じも見事に払拭され、ワンシーンごとに最適なテンポで笑いを詰め合わせる工夫がなされていた。今回の決勝メンバーの中で最も、”研ぎ澄まされた”という形容が似合うコンビだと感じた。

 

 

最終決戦① スーパーマラドーナ

ネタが始まった瞬間、なるほどこのネタで来るのかと僕は唸った。これは今の彼らが最も得意としている「田中の一人芝居」形式のネタではない。1本目と同じ枠組みのネタを2本目でもやる場合、1本目を凌ぐ笑いの要素がしっかり備わっていれば爆発が期待できるが、逆にパターンが飽きられてしまって不発に終わる場合もある(2010のパンクブーブー、2015のジャルジャル)。スーパーマラドーナは後者に陥るのを回避するため、あえて全く異なる装いのネタをもってきた。これはきっと勇気のいる選択だったろう。

そして彼らの目論見は心憎いほどに奏功した。先ほど武智は策士だと書いたが、策士の面目躍如ともいえる英断だったわけだ。「俺が侍やるから、おまえチンピラやれ」。なんだ、ベタなコント漫才の入り方だな…そう油断させておいてから、「町娘やれ」「野次馬やれ」「ちょんまげやれ」「裏番組やれ」とどんどん設定が飛躍していく。この目まぐるしさは爽快だ。シチュエーションを固定してテンポを速めボケを羅列するというスタイルは、2000年代中盤のM-1のトレンドに戻ったかと一瞬思わされたが、田中がどの役をやっても走り出てきて斬られてしまうという繰り返しのアホさが効いている。

一人芝居にツッコむネタから二人の掛け合いで笑わせるネタに切り替えた戦略は、結果的には、音響をモノラルからステレオにスイッチするような目覚ましい効果を生んだ。優勝こそできなかったが、名軍師・武智の戦いっぷりに脱帽だ。あと関係ないが番組中、ネタ以外の部分で積極的に笑いをとりにいっていた田中の勇姿にも感動した。

 

最終決戦② 和牛

スーパーマラドーナとは逆に、1本目と同じフォーマットを選んだのが和牛だ。男女のデートという設定から、中盤で大きなトラブルが起こり、最後には水田が逆ギレするという流れまで、同じ鋳型で成形した漫才である。では肝心の中身はどうか。高級レストランのディナーで言えば、同じコースであっても季節ごとに料理の内容は変わっていく。「夏のコースのほうがおいしかったね…」では駄目なのだ。その点、僕の感覚で言うと、彼らの2本目のネタのクオリティは、1本目のそれを確実に上回っていた!「前に来た時のフィレ肉のローストもおいしかったけど、このサーロインのグリルはもっとおいしいね」というようなことで、観客はA5ランクの最高級和牛料理に舌鼓を打ったのである。

蛙に長々と喋りかけるシーン、射的の銃を構える上下迷彩服、指輪を巻いた蛙を探す二人の間抜けな動き(川西の「探せ探せ、指輪が逃げる」というフレーズ!)…秀逸なくだりの連発に、僕はひとりでテレビを見ながら思わず興奮して立ち上がってしまうほどだった。ただ、ラストで水田が逆ギレした後に、1本目でいうアスレチックの動きのような大展開が、さらに乗っかっていてほしいとつい期待してしまったのは僕だけじゃないはず。最後10秒が惜しかった! オチは「金魚すくい行ってくる」みたいに守りに入らず、さらに欲張って攻め込んだとしても、この日の和牛の勢いならすんなり受け入れられたと思うのだ。これは気鋭のストライカーに代表戦でのハットトリックを期待するような、身勝手なサポーターのいち要求にすぎないのだけれど、そんな期待を抱かせるほど彼らは突出した決定力をもっているということなのだ。

 

最終決戦③ 銀シャリ

出だしの「うんちくん」から、橋本のツッコミがもう、たまらない。「なんやその謎のゆるキャラは」「うんちくんでゆるキャラ、それはもう下痢やから」。

やっぱり要所要所で期待に応えてくれるのが彼だ。「『を言ってくれてありが』どこいってん。言葉の出血多量や」「その当時に七分丈という概念が存在してるやん」「(『語源ってそういうもんやから!』に対し)それ一本の命綱すごいな」。最後の鰻の「バリ、バリ、バロリ、ブロリ、ブロコリー、ブロッコリー」は、僕はまんまとツボに入ったのだが、客席はもっとウケてもよかったんじゃないか。

笑いのデシベル数でいえば、最終決戦はスーパーマラドーナや和牛には及ばなかったかもしれない。しかし銀シャリの持ち味が存分に発揮されたネタで、言葉のもつ面白さを懸命に発掘するような、二人のひたむきな姿勢が眩しい佳品だった。のちのインタビューで橋本はこんな風に語っている。『1本目のほうがボケ数も多いし、2本目はやってても難しいんですが、「しゃべくりで行くぞ!」っていう表明の漫才というか、2人でしゃべるというポリシーを詰め込んだ漫才だった。』(お笑いナタリー)漫才ファンからすると本当に嬉しい、男気に溢れた決意表明だ。漫才師としての矜持を見せつけ、しゃべくりという表現形態の牙城を全身全霊で守り抜いた二人の優勝を寿ぎたい。